【インドネシア赴任体験】「Jam Karet」と「Macet」に翻弄される日々

体験談

私が赴任した先は、多民族国家インドネシア、その首都ジャカルタです。インドネシアにはインドネシアならではの、日本人の常識を軽々と超えてくる文化が根付いています。

今回は、ジャカルタでの駐在生活で体験した、日本ではあり得ない「Jam Karet(ゴムの時間)」と「Macet(渋滞)」にまつわるエピソードを中心に、リアルなインドネシアのビジネスと生活をご紹介します。

「Jam Karet(ゴムの時間)」に伸び縮みするビジネスと人生

インドネシアでビジネスをする上で、まず理解しなければならないのが「Jam Karet(ジャム・カレット)」という概念です。直訳すると「ゴムの時間」。つまり、時間がゴムのように伸び縮みするという意味です。

会議の開始時刻はあってないようなもの。アポイントの時間に30分遅れてくるのは日常茶飯事、1時間、2時間遅れることも珍しくありません。最初は「時間を守らないなんて!」と憤慨していましたが、彼らにとっては「渋滞で遅れるのは仕方ない」という大前提があるのです。

そして、最も衝撃的だったのは、約束の期日です。現地スタッフに「明日までに資料を準備してほしい」と頼むと、彼らは笑顔で「Siap!(準備万端!)」と答えます。しかし、翌日になっても資料は上がってこない。催促すると「Oh, besok saja.(ああ、明日でいいよ)」と悪びれる様子もなく言われるのです。

そう、インドネシアの「明日」は、必ずしも翌日を指すわけではありません。数日後かもしれないし、もしかしたら永遠に来ないかもしれません。この「Jam Karet」の感覚に慣れるまで、私は何度胃薬を飲んだことか。今では、重要な案件は常に前倒しで、複数のスタッフに依頼するようになりました。

世界最悪レベルの「Macet(渋滞)」がもたらすカオス

ジャカルタの「Macet(マチェット)」、つまり渋滞は、まさにカオスです。世界最悪レベルと言われるその渋滞は、駐在員の生活とビジネスに多大な影響を与えます。

片道10kmの通勤に2時間かかるのは当たり前。雨季のスコール時には、たった数キロの移動に3時間以上かかることもあります。車内で朝食を済ませ、車内でメールチェックをし、時には車内で仮眠を取る。私の車は、もはや移動するオフィスであり、寝室でした。

かつてジャカルタには「3 in 1」という交通規制がありました。これは、乗車人数が3人未満の車は特定の時間帯に中心部を走行できないというもの。この規制を回避するために生まれたのが「Joki(ジョキ)」と呼ばれる「同乗屋」です。道の脇に立つジョキを拾い、彼らを乗せて規制区間を通過する。規制の抜け穴を逆手に取った、インドネシアらしい柔軟な発想には驚かされました。

この渋滞のおかげで、週末は巨大なショッピングモールで過ごすのが一般的になりました。外を歩く習慣がないため、モールは涼しく快適な「もう一つの生活空間」なのです。

「お祈り」と「ラマダン」に優先される信仰心

インドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を抱える国です。そのため、イスラム教の信仰がビジネスや日常生活に深く根付いています。

一日5回のお祈りの時間は最優先。重要な会議の最中でも、アザーン(お祈りの呼びかけ)が聞こえると、スタッフは席を立ってお祈りの場所へ向かいます。最初は戸惑いましたが、彼らにとって信仰は仕事よりも大切なもの。この文化を理解し、尊重することが、現地スタッフとの信頼関係を築く上で不可欠だと学びました。

そして、年に一度訪れる「ラマダン(断食月)」。日の出から日没まで飲食を断つ期間です。ラマダン中は、日中の集中力や作業効率が低下する傾向にあります。また、多くの企業が短縮営業となり、ビジネスのスピードも落ちます。

しかし、日没後の食事「ブカ・プアサ」は盛大に行われ、家族や友人と食卓を囲む時間は彼らにとって至福の時です。ラマダン期間中は、ビジネスの進め方にも配慮が必要ですが、この期間を通じて彼らの信仰心の深さに触れることができました。

インドネシアでの駐在生活は、「Jam Karet」と「Macet」に代表されるように、日本の常識が通用しないことの連続です。しかし、その中で培われる柔軟な思考力と、異文化を受け入れる寛容さは、何物にも代えがたい経験となりました。

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