今回は、微笑みの国・タイ、バンコクでの駐在生活で体験した「日本では考えづらい」出来事をご紹介します。
タイは親日国で、ご飯も美味しく、一見すると非常に快適な国です。しかし、一歩足を踏み入れ、現地で生活し、ビジネスを始めると、日本の常識が通用しない壁にぶち当たります。そのギャップこそが、駐在員生活の醍醐味であり、時に胃をキリキリさせる原因にもなるのです。
堅苦しい話は抜きにして、駐在員仲間と酒を酌み交わしながら「あれはマジでヤバかった」と笑い話になる、リアルなエピソードをお届けします。
本社との温度差が生んだ合言葉「TKY」
タイでのビジネスで、駐在員が共通して抱えるストレス。それは、日本本社との「温度差」です。
特に中小企業の場合、現地法人には営業や技術のトップが赴任し、総務や経理といった間接部門の専門家がいないケースが多々あります。そんな中、本社からは日本の感覚で「今月の経理報告はまだか」「その契約書、日本の様式に直して送れ」といった指示が飛んできます。
現地社長は、タイ語の書類と、日本の常識では考えられないタイ人スタッフの仕事観に挟まれ、文字通り悪戦苦闘しています。そんな極限状態の中で、駐在員たちが密かに、そして心の中で叫ぶ合言葉があります。それが「TKY」です。
TKY:(T)てめー、(K)こっちに来て、(Y)やってみろ!
これは、現地でがんばる駐在員たちの魂の叫びです。日本でデスクに座っているだけでは見えない、タイのリアルなビジネス環境。この言葉を聞いただけで、その駐在員がどれだけ現地で苦労しているかが分かります。
仕事中に「お菓子パーティー」は日常茶飯事
日本のオフィスで、就業時間中にデスクでお菓子を広げてモグモグ食べていたら、上司に怒られるか、同僚に白い目で見られるでしょう。しかし、タイではこれが日常の風景です。
タイ人は一食の量が少なく、すぐにお腹が空くため、一日に何度も間食をします。オフィスでも、常に誰かのデスクにはお菓子やフルーツ、甘い飲み物が置かれています。会議中でも、平気でスナック菓子を食べているスタッフもいます。
最初は「仕事中に何をしているんだ!」と驚き、注意したこともありました。しかし、彼らにとってこれは「文化」であり、むしろ「お腹が空いて集中できない」という方が問題なのです。
この文化を理解し、現地スタッフと打ち解けるために、私も積極的に日本のお菓子を差し入れするようになりました。彼らが目を輝かせて「キットカット」や「ポッキー」を食べている姿を見ると、少しだけ心が和みます。
渋滞で「数百メートルを30分」歩かない文化
バンコクの渋滞は、世界でもトップクラスの悪名高さを誇ります。雨季の夕方など、数キロ先の目的地まで車で2時間かかることもザラです。
そんな渋滞の中、日本人の感覚だと「歩いた方が早い」と思う距離でも、タイ人は絶対に歩きません。数百メートル先のコンビニに行くにも、バイクタクシー(モタサイ)を捕まえます。
なぜなら、バンコクの街を歩くことは、想像以上に過酷だからです。強烈な日差しと湿気、車やバイクの排気ガス、そして整備されていない歩道。水たまりを踏んで靴が汚れるリスクや、屋台の油の匂いが服に染み付くことも避けたい。
「歩く」という選択肢が、彼らの生活習慣から完全に抜け落ちているのです。私も赴任当初は「健康のために」と歩いていましたが、すぐにその過酷さにギブアップし、今ではすっかり「歩かない文化」に染まってしまいました。
仏教国ならではの「出家休暇」と「タンブン」
タイは敬虔な仏教国です。国民の90%以上が仏教徒であり、その信仰心は私たちの想像を遥かに超えています。
特に驚くのが、男性が一生に一度は僧侶になる「出家」の習慣です。これは親への最大の恩返しとされており、ほとんどの企業で「出家休暇」が認められています。期間は数週間から数ヶ月。もちろん、その間は給与が支払われます。
日本の会社で「すみません、親孝行のために来月から3ヶ月、お坊さんになります」と言ったら、間違いなく上司はひっくり返るでしょう。しかし、タイでは「おめでとう、良いタンブン(徳積み)になるね」と祝福されるのです。
また、仕事よりも「タンブン(徳積み)」が優先されることもあります。重要な会議の直前でも、「今日はタンブンの日だから」と平気で早退したり、仕事を休んだりします。彼らにとって、現世での仕事の成功よりも、来世での幸福の方が遥かに重要だからです。
この文化を理解し、受け入れることが、タイでビジネスを成功させるための第一歩だと痛感しました。
タイでの駐在生活は、毎日が驚きと発見の連続です。日本の常識が通用しないからこそ、柔軟な思考と、何があっても「マイペンライ」と笑い飛ばせるタフさが身につきます。






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